プラチナー2nd-
向き合う気持ち
和久田は紗子を連れて駅の傍のカフェに入った。紗子は黙って手を引かれるままになっていた。席に着いてコーヒーとミルクティを注文してテーブルに腕を組むと、俯いていた向かいの紗子が少し顔を上げた。
問いたいことはいっぱいあるが、まず聞いておかなければいけないことがある。
「お前、俺と言うものがありながら、なんでその気のあいつの誘いを受けたんだよ。まずそこからして間違ってるだろ」
問い質すと、紗子はまた俯いて、そして小さな声で、「『俺と言うもの』ってなに」と言った。
えっ? そこの説明? それとも拗ねてるからの言い返し?
紗子の様子をうかがうと、両方の意味がありそうだった。拗ねてもいるし、純粋に分かってない目もしている。
「えっ? だから、付き合ってるんだから俺はお前のもんだし、お前は俺のもんだろ?」
「……付き合うって、誰が決めたの?」
は……?
事の展開に、和久田はついていけない。だって自分は紗子が好きだと伝えたし、紗子もあの時和久田を好きだと言った。だったらお付き合いが始まるのが普通じゃないだろうか。
そう思っていたら、うつむいたままだった紗子がぱっと顔を上げて和久田を見据えて訴えてきた。目に涙が堪っていて、それが店の照明に光っていた。ぎょっとする。
「……だって、そんなのひと言も言わなかったじゃない……。だから、私、和久田くんとは…、お付き合い出来ないんだと思って……」
だから、クリスと出かけても良いと思ったという。なんでそういう理屈になるのか分からないけれど、涙を零しそうになっている紗子を前に、和久田が平静で居られるわけがなかった。好きな相手なのだ。泣かれるのは弱い。
「ちょ、待て。取り敢えず涙拭こうか」
和久田は慌ててポケットからハンカチを取り出して紗子に渡す。紗子は大人しくそれを受け取って涙を拭っていた。
ぽろぽろと零れる涙は心臓に悪い。兎に角泣き止んでくれるのを待った。