プラチナー2nd-
「山脇さん、駄目です駄目です。主任にはうちの会社に居てもらわないと……」
紗子の言葉に笑ったのは浜嶋だった。
「確かに、将来有望な部下が成長する姿を見られなくなるのは寂しいからな」
えっ、それ私のことかな? 仕事が遅い紗子のことを、リップサービスでもそう言ってもらえるとやる気になる。紗子はえへへ、と笑って、残業ばっかりですけどね、とへりくだった。
「求められることに対して完璧に応えようとするだろう、お前は。それじゃあ、何時か身体か心が悲鳴を上げる。もうちょっと相談してくれても良いんだぞ」
上司らしい言葉に山脇が微笑む。紗子は恥ずかしくて俯いた。
浜嶋に一人前だと思ってもらいたくて、早く成長しなければと思っていたし、仕事ももっと出来るようになったら、浜嶋に褒めてもらえるような気がしていた。浜嶋に認めて欲しい。それは公私ともにのことだった。でもそれは婚約者の居る浜嶋には望めないことだし、紗子も本気で求めてはいけないことは分かっている。分かっているけど、理性と気持ちは上手く両輪で回らないことが多くて、だから浜嶋に惹かれてしまうのも仕方なかったのだ。
紗子の胸に燻(くすぶ)っている浜嶋への想いはそう簡単には消えない。二年間、毎日想い続けてきたのだ。
「紗子さん、お水です」
不意にテーブルにミネラルウォーターが届けられた。見上げるとこの店の給仕アルバイトのクリスが紗子の為に水を持ってきてくれていた。
「あ、ありがとう……」
クリスはアメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれたハーフだが、それをひけらかすような真似はしない良い子で、美術の専門学校に通っているらしい。端正な顔に人懐っこい笑みを浮かべて給仕をする姿は、店の女性客の注目の的だと言うことは山脇が教えてくれた。