料理男子、恋をする
「長い休みの時に手伝うてくれるんやったらそれはそれで助かるけど、普段は従業員でまわっとる。佳亮もいらん心配せんでエエ」
ぐいと日本酒を飲む父に葉月がお代わりを注ぐ。こういうところを見ると、葉月は良いお嫁さんになると思う。お兄ちゃんは? と視線で問われて、要らない、と返す。
「それよりお前はエエ話は出てけーへんのか。東京に行って、もう六年やろ」
父の言葉に照れる。実はな、と言うと、父より母の方が反応した。
「あらやだ。あんた恋人出来たん? 学生時代あんだけ振られまくってた佳亮が? 何処のもの好きなん」
「おかん、ひどいわ。時間できたら連れてくるから会うてくれるか? エエ人やで」
家族に薫子のことを話すのは本当に照れる。葉月もこんな気持ちなのかな、とちょっと思った。
「ま~、ホンマに? 佳亮の振られ癖はお母さんの所為やと思てたから、ホンマなら嬉しいわあ」
「おかんのおかげで実ったんやで」
あらまあ、と目をくるくるさせてる母に、早く薫子を会わせてやりたい。身長には驚くかもしれないけれど、話せばすぐにいい人だって分かってもらえる筈だから。
「連れてくるときは言いなさい。部屋を一部屋用意したる」
父がそんなことを言った。きっと、この旅館を誇りに思っているからだ。佳亮も是非そうしたいと思う。
「うん、連絡するな。楽しみにしといて」
目じりの皴が深くなった両親に、今年は良い親孝行が出来そうな気がした。その為にも、望月とは一度ちゃんと話してみなくてはいけない、と思った。