料理男子、恋をする


兎に角何とか話し合ってみると薫子に伝えて、佳亮は望月の許を訪れていた。薫子の家には及ばないが、望月の家も相当大きな、此方は日本家屋だった。庭には池を配した庭園があり、佳亮はそれを眺めることの出来る応接間で望月を待った。

すっと襖があいて、望月が現れた。望月は着物姿で、佳亮が事前に来訪を告げてあったことを考えると、普段から和装なのだろう、立ち振る舞いが優雅だ。

部屋に入ってきた望月は佳亮の正面に座り、何の用かと訊ねた。

「……僕と望月さんで話さなければいけないことは、一つだけやと思います」

望月は佳亮の言葉を聞くと瞑目して、ひとつため息を吐いた。

「…君は彼女に相応しくない。身を引いてくれないか」

いきなり単刀直入に返されたが、まどろっこしくなくていい。佳亮は望月の目を見て、そういう訳にはいかない、と返答した。

「薫子さんは僕との将来を考えてくれてはりますし、僕も、出来ればご両親に許して頂いていずれ結婚したいと思うてます。僕の事を知らずに相応しくないと断じる前に、話し合いに応じてくれませんか」

佳亮が話し掛けても、望月は首を振るだけだ。またため息を吐いて、こう言った。

「君では、彼女を悲しませるだけなんだ。どうか、引いて欲しい」

どうして佳亮だと薫子を悲しませることになるんだろう。望月の言っている意味が分からなくて、佳亮は問うた。

「なにが貴方にそう言わせているのですか? 婚約の約束の事なら……」

婚約の約束の事なら、もう薫子の気持ちで決着がついている。そう言おうとした時に、違う、と言葉を遮られた。

「君のご両親は、彼女を受け入れないだろう。その時に彼女が傷つくよりも、僕の許に来た方が良いと言っているんだ」

佳亮の両親が薫子を受け入れない? 訳が分からなくて、佳亮は更に問うた。

「貴方は何を理由にそんなことを言わはるんですか? 僕の両親と話したことが?」

もしかして望月と両親が知己だっただろうかと思ったが、違うようだった。

「僕が君のご両親の気持ちを代弁するのは嫌だろう。僕もこれ以上は言わない。……が、彼女を傷つけたくないなら、本当に身を引いてくれ」

理由を明かさず身を引いてくれと言われても受け入れられない。NOを返すと、仕方ないと言って望月が立ち上がった。

「彼女に相応しいのは、彼女を守れる強い男だ。僕と勝負してくれないか」

望月、187センチ。対する佳亮、168センチ。この体格差で物を言うわりに、冗談っぽさが感じられなかった。
< 105 / 125 >

この作品をシェア

pagetop