料理男子、恋をする
「か……っ、薫子さ……」
みっともない所を見られたな。そう思っていると、望月が嬉々として薫子に訴えた。
「薫子さん、これで分かったでしょう。貴女を守るのにふさわしいのは彼じゃない」
「体格差を分かっていて勝負するのはフェアじゃないわ」
しかし、望月の言葉を真っ向から否定する薫子に、望月が声を張り上げた。
「柔よく剛を制すと言うでしょう!」
「佳亮くんに運動経験がないことは、分かると思うわ!」
それもどうかと思うんですけど!
佳亮は先刻から泣き笑いのままだ。それでも、薫子の方が幾段も話が通用しそうだと思った。
「『勝負は嘘をつかない』、貴女の言葉でしたよね? それを支えに、僕は鍛錬を積んできました。今の結果を見れば分かるとお思いですが」
自信満々の望月に、薫子が顔を歪める。
「……そう思っていた時期もありました。でも、人の心は強さだけでは測れない、と、今の私は思います」
「彼が貴女を傷つけることになってもですか!」
望月には望月なりの、薫子を想う気持ちが今もある。あの時から守りたい相手は薫子だけだった。
「女だからって、守られるばかりではないの。傷ついても欲しいものはあるわ」
それでも薫子が頑として望月を認めないから、望月は歯を食いしばってでも薫子の言葉を受け入れなければならない。お互いの気持ちが平行線で、決して交わることが無いのだと、この時望月はやっと気づけたのだ。