料理男子、恋をする


誰の事も見向きもしなかった彼女が、婚約者が僕だと知ってそれでも婚約状態を続けてくれていたのに優越感を持っていた。

「全国大会優勝、おめでとうございます」

会長のお宅に新年のあいさつに伺った時、彼女は確かにそう僕に言ってくれた。

「勲章ですよ。貴女の隣に立つという」

そう言うと、彼女は苦笑交じりに微笑った。

「…私には大滝は重いです」

「僕が支えます」

彼女の言葉に即座に言うと、やっぱり彼女は苦笑交じりに微笑った。

「……佑さんは、望月を重たいと思ったことはない?」

ふと訊ねられた問いに、瞬時に応える。

「僕の根幹ですから」

そう言うと、彼女は強いのね、と寂しそうに俯いた。

…きっと彼女は支えを必要としている。それを出来るのは自分だけだと思っていた。



――「女だからって、守られるばかりではないの。傷ついても欲しいものはあるわ」



今ならあの時の彼女の寂しそうな顔が何故だったか分かる気がする。

与えられるばかりの環境で、彼女は『本当に欲しいもの』を探していたのだ――。


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