料理男子、恋をする
部屋の中央にしつらえられてあるソファセットに、八十くらいの顎髭が立派な老人、そして壮年の夫婦が座って居て、その後ろに背の高い青年が居た。佳亮は取り敢えず頭を下げる。
「初めまして、杉山佳亮と申します。この度はお誘いいただきありがとうございます」
佳亮の挨拶に歩み出てくれたのは夫婦の後ろに立っていた青年だった。
「やあ、会えてうれしいよ。僕は大瀧樹。薫子の兄だ。こっちは父の雄一(ゆういち)と母の祥子(さちこ)、そして祖父の宗一(そういち)だ」
樹の紹介に頭を下げる。宗一は微笑みを浮かべていたが、雄一と祥子は佳亮を冷ややかな目で見ていた。
「ようおいでなすった。まあ、君も掛けなさい」
宗一がそう言って、自分の向かいのソファを勧める。佳亮は薫子や樹と一緒にソファに座った。
「あの、これ、皆さんで召し上がってください」
そう言ってまずは菓子折りを差し出す。銀座の有名和菓子店の羊羹だ。定番だけど知らない相手に持って行くならこういうものの方が良い。テーブルに差し出した包みを見て、祥子が口を開く。
「まあ、薫子。佑さんとのお話を断ったというから、どんな青年かと思っていたのに、なんて平凡な男性なの」
「お母様」
「それに、佑さんだったらわたくしの好きなゼリー寄せを持ってきてくれたに違いないわ。そう言う気配りが、この方にはないのね」
「お母様」
うう、早くも針のムシロ状態だ。膝の上でぎゅっと手を握って耐えていると、宗一が、まあまあととりなす。
「佑くんとは付き合いの長さが違うじゃろう。杉山くんが悪いわけではないわな」
人好きする笑みを浮かべて、そう言ってくれる。この場で笑みを浮かべてくれるだけでなく気遣いの言葉までかけてもらって、佳亮はほっとする思いだ。