料理男子、恋をする
「今度お伺いするときは、ゼリー寄せを持ってきます。存じ上げず、申し訳ありませんでした」
「まあ。厚顔だこと。二度目があるとお思い?」
薫子が祥子を諫めているが、彼女の苛立ちは収まらないようだった。
「わたくし、彼を息子と呼ぶのは嫌よ。お父さまも肩を持ってばかりいないでくださいな」
「ふむ。しかし杉山くんは良い青年じゃよ。杉山くん。この爺の顔に見覚えはないかな?」
突然振られた話に、佳亮はきょとんとする。宗一と前に会ったことがあっただろうか?
そう思って宗一の顔を見ていると、ふと思い出す面影があった。顎髭豊かなおじいさんに、コンビニのモンブランタルトを譲った記憶がある。
「あ……、あの時にお孫さんの為にモンブランを買っていかれた……?」
佳亮の言葉に宗一はにっこり笑った。
「薫子がアパートから帰ってきておると聞いて、君の顔も見てみたかったからあそこまで出向いてみたんじゃ。あの時はあとから手を出したにもかかわらず、快く譲ってくれてありがとうな」
まさか、あんなコンビニに大瀧の会長が出向いたとはいえ居たなんて、思いもしなかった。……ということは、宗一は早くから佳亮と薫子のことを知っていたのだろうか。
「薫子が急に平田に料理を習い始めたというのでな。失礼かと思ったが、調べさせてもらった。祥子、杉山くんは品行方正な良い青年じゃよ。佑くんにも劣らんと思うぞ、儂は」
「まあ、お父様!」
「おじいさま……」
娘と孫に見つめられた、宗一は、ほっほ、と笑った。