料理男子、恋をする

「……んむ。美味い。ばあさんの味とは違うが、さっぱりとしておって食べやすい」

「ほ、本当ですか」

そう言ってもらえるだけで嬉しい。流石に味の再現は出来なかったようだが、それでも好みの味に仕上げられたのは嬉しい。お父さま、と咎める祥子に、お前も食べてみなさい、と宗一が勧めている。祥子がしぶしぶ玉子焼きを食べたのを見届ける。

「ん……。……あら、懐かしい味。子供の頃におかあさまが作ってくださった味だわ」

「うん、この玉子焼き美味しいわ、佳亮くん」

「レンコンハンバーグはビールのつまみにも良さそうだ」

祥子に続いて薫子や樹も手を伸ばす。みんな口々にお弁当を頬張ってくれて嬉しい。窓の外には大きな枝垂れ桜の枝が揺れている。白樺の平田もにこにことその様子を見ているところへ、雄一が口を開いた。

「……さて、お養父さまが良くても、杉山くんのご両親が何と言うか、ですよ。もし薫子を傷付けるようなことを言う方でしたら、そんな人が居る家へ薫子を嫁がせるのは、私は許しませんけどね」

「それは薫子が何とかすることじゃ。儂らが出しゃばる場面じゃないじゃろう」

ほっほ、と宗一が顎髭を撫でた。佳亮は薫子と顔を見合わせることしか出来なかった。

< 116 / 125 >

この作品をシェア

pagetop