料理男子、恋をする

ご挨拶(2)


薫子の家族と会ったその週の週末、佳亮は実家に電話をしていた。薫子を両親に紹介する為の日取りを決める為だ。

『夏休みになる前やったらこっちも空いとるから来てもろてもエエよ』

「そう? ほな、来週の週末にでも帰るわ。何か買っていくもんある?」

『そんなこと気にせんと。彼女の緊張解してやりぃさ』

母が薫子を気遣ってそんなことを言う。確かにそうかもなと思って、母の言葉を有難く受け止めておいた。

薫子はこの一週間、宗一と雄一の間で交わされた言葉について考えていたらしく、なにかあるのかしらとしきりに気にしていた。佳亮も気になっているが、正直ヒントがなさすぎて思い当たらない。佳亮の両親は息子の自分が言うのもなんだが、人も良く、旅館を経営しているだけあっていろんな人間に対応でき、よほどのことがない限り腹を立てたりしない。娘を嫁がせる親の過剰な心配ではないかとも思ったりした。
しかし、そう安心してしまうには以前望月が言った言葉と雄一の言った言葉が重なりすぎる。望月に言われたときはただただ疑問なだけだったが、雄一と符号が一致すると疑問という言葉だけでは片付けられない。

(なにか、問題があるんやろか……)

佳亮と薫子の交際に。佳亮が薫子を迎える者として。薫子が佳亮のもとへ嫁ぐ身として。

なんだろう、と佳亮は考えた。



新幹線と私鉄を乗り継いで奈良へ。駅から両親が営む旅館までは更にバスを使う。東京都は全く違う景色の故郷(ふるさと)に薫子を案内しながら、佳亮は薫子を振り向いた。

「秋になると紅葉もきれいなんですけど、梅雨は過ごしにくいだけで申し訳ないです。今度別の機会にご案内しますね」

「う、うん……。でも、今はそこまで頭が回らないわ……。無事にお父様お母様に気に入って頂けたら、誘ってくれる?」

ご尤もな言葉に佳亮は薫子の手を握った。思いの外ぎゅっと握り返されて、よほど薫子が緊張しているのだと分かる。平静だったら、絶対に戸惑っているところだ。

(おとんもおかんもいろんな人を受け入れてきた人たちや。他人を『看板』で判断したりせえへん……)

佳亮は両親を信じていた。

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