料理男子、恋をする
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「よう来はったね」
そう言って父も母も薫子をにこやかに迎えてくれた。両親の笑みに薫子は深々と頭を下げた。
「佳亮さんとお付き合いさせて頂いております、大瀧薫子と申します」
あの、これご家族で。
緊張した面持ちでそう言った薫子が差し出した包みに視線を落とすことなく、母が呟いた。
「おお、……たき?」
母は薫子の顔を凝視している。父も薫子の自己紹介に驚いた様子だった。
「あんた、……もしかして大瀧建設の娘か」
大瀧建設。確かに薫子の実家の会社だ。それがどうしたのだろう。佳亮が疑問に思っている前で、母と父の表情が豹変する。微笑みを浮かべていた口はきゅっと引き結ばれ、目に怒りを露わにした。
「大瀧の娘を、我が家に受け入れるわけにはいかへん」
母は薫子を前に顔を真っ赤にしてそう言った。母の顔に怒りが宿っているのを見るのは、これが二度目だった。
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あれは佳亮が小学生の時。夜中に母が悔しさに泣いていた。父が怒りに拳を震わせていた。観光地近くに構えていた自分たちの居場所を奪われる。移転への作業に移らざるを得なくなる。力に屈した悔しさ悲しさ。それが一番現れていた夜だった。
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「……昔、私らが居た場所に、観光地再建だと言って大きなホテルと観光街を建てはったんが、大瀧建設や。私らはあの場所を奪われて、こんな辺鄙な場所に移って来た。その時にあった資金でようやっと建てたこの旅館には、お客さんも半分以上戻ってきはらへん、売り上げは格段に落ちた。あの時からの悔しさを、私らは忘れてへん」
『大瀧』を前に、怒りで拳が震える母親を、佳亮は止めることが出来なかった。どんな人でも受け入れてきた両親が許せない人が居ることを受け止めきれない。顔を真っ青にして俯く薫子に、寄り添うしか出来なかった。