料理男子、恋をする

「私はリゾート施設の内装を手掛ける会社で働いております。良いお仕事をさせて頂くとお約束します。是非、この旅館の未来を手伝わせてください」

言い切って鞄から出した内装デザインの書かれた資料を4枚ほど出すと、薫子は畳に額が付くかと思うほど頭を下げた。隣の望月が口を開く。

「私はホテルサービスをご提供する会社に勤めております。今回、近隣の飲食店からご協力を得ることが出来ました。そのお店の方たちとコラボして、この旅館にお泊り頂く方だけではなく、新しいお客様を掘り起こしてみませんか?」

展開される話に、佳亮もびっくりだ。まさか奈良の小さな飲食店にまで手を回しているとは知らなかった。薫子が更に言葉を継ぐ。

「地の利が悪いとおっしゃっておられましたが、ここまで足を延ばされたお客さまにはこの旅館の窓から見える景色をお楽しみいただけます。観光地らしかぬ自然の残った美しい風景。遠景に五重塔。そこで供される、地元ならではのランチやスイーツ。……つまり、デイユースを取り込むのです」

「し、しかし、お泊り頂かんことには、経営は苦しい」

父の言葉に薫子はにっこりと微笑んで言葉を継いだ。
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