料理男子、恋をする
「勿論、デイユースは足掛かりにすぎません。顧客の半分以上を失われた分は新規のお客様を確保せねばなりません。部屋は見違えるほど良くします。ご両親のおもてなしさえあれば、きっと二度目はご宿泊に違いありません」
そこまで言われると、自分たちの力を信じてないとは言えないのだろう。父がううむ、と唸った後、しばらく沈黙し、そして母に目配せした。
「しゃあない。そこまで言われて自分らの力、信用出来ひんなんて言われへん。大船に乗った気持ちで任せてみるわ。大滝さん、この旅館をよろしゅう頼んます」
父の言葉に薫子の表情がぱっと明るくなる。望月も安堵したようでほっと息を吐いていた。
「薫子さん、望月さん。うちの為に、ありがとうございます……」
佳亮は二人に対して深々と頭を下げた。
「や、止めてよ、佳亮くん。今までうちが関わった事業の中で、こうして犠牲になった人たちが居たんだと、改めて分かったわ。だから私たちは胡坐をかいてちゃいけない。そう知れて、勉強になったのよ。お礼が言いたいのはこちらだわ」
「僕も、今回の話はいい経験になった。悪い話ばかりではなかったよ、杉山くん」
望月にまで言われてしまうと、本当に困る。この恩をどう返せばいいのか分からない。
「そんなの、薫子さんを幸せにすることでしか返せないだろう。君は知っている筈だ」
この二人には敵わないな。本当にそう思う。それでも安心した様子の薫子が微笑んでいたので、佳亮も両親に向かい直った。
「おとん、おかん。薫子さんとの交際、認めてもらえますか?」
佳亮の言葉に母が苦笑する。
「あんた、このやり取りを見て、認めんなんて言葉、出てくると思うてへんやろ」
「大瀧さんには改めて奈良に来てもらいたい。……新しくなった部屋に客として泊って欲しい」
父の言葉に薫子が是非、と頷いた。……少し、薫子の目じりに光るものを見てしまったけど、言わなかった。