料理男子、恋をする
「一体、何のつもりでこんな大金振り込んだんですか!」
「え? だって、私この前聞いたでしょう? ご飯のお代を支払うから、口座教えてって」
確かに聞かれたとも! でも、こんな大金だなんて思わなかった。
「月にたった二回。それもごくありふれた普通のご飯を食べただけで、貴女はこんな大金を店に支払うんですか!?」
銀座の三ツ星レストランでも、こんなに取らないぞ。そう言うと、薫子はしゅんとした。
「ごめんなさい。相場が分からなかったの…」
相場が分からなくて…。それにしたって多すぎる。
「兎に角、これはいったんお返しします。こんなの受け取れない」
そう言うと、薫子が焦ったように言った。
「そんな…。困るわ、私、こういう風にしか、お礼が出来ないのよ……」
他に何もできないし…。
そう言って、また肩を落として視線を下げる。
高級車に乗っていたり、ブラックカードを持っていたり、ホテルのティーラウンジで黒服が挨拶に来たり、何処かのお金持ちかなとは思っていたけど、あの1Kの部屋と結びつかなかった。でも、これで分かった。薫子はれっきとしたお金持ちだ。それも、かなり世間知らずの。
佳亮は気持ちを落ち着けて薫子を諭した。
「…薫子さんに出来ること、あるじゃないですか」
佳亮の言葉に薫子が顔を上げる。
「私に…、出来ること?」
言われて、でも本当に思いつかないといった顔で佳亮を見た。ちょっと笑えてしまう。