料理男子、恋をする
***
桜が満開になった週末、佳亮は織畑を駅に迎えに行った。佳亮のマンションの近くに、距離は短いが桜並木が見事な河川敷があって、織畑が有名どころの桜よりそういうこじんまりとしたところのほうが良いと言ったのだ。
「織畑さん」
電車を降りてきた織畑は大きな荷物を持っている。小さな織畑の顔が隠れてしまうような大きさで、銀色のそれはクーラーボックスのようだった。
「持ちますよ」
「あ、ありがとう」
織畑の荷物を持ち、河川敷の方へ歩いていく。天気も良く、河川敷に出ると丁度いい散策コースで桜並木が続いている。二人は桜の下を歩きながらまずは花見を楽しんだ。
他にも花見を楽しんでいる人たちが居て、中にはシートを敷いて宴会をやっているグループもあった。
佳亮と織畑は桜並木の真ん中ほどにしつらえられた幾つかのベンチのうち、空いているベンチに腰掛けた。
「それでね、これ…」
ベンチに下したクーラーボックスを織畑が開ける。保冷材の入ったそこには、お重が詰め込まれていた。
***
今日は佳亮の出張料理がない週末だった。薫子はコンビニでビールとおにぎりを買って、マンションに戻ろうとして、そういえば桜が満開だとニュースで言っていたなと思い出すと、マンションの近くにある河川敷に足を向けた。
コンビニで買ったビールを飲みながら河川敷の歩道を歩く。空が水彩絵の具を溶かしたような水色で、薄く雲がたなびいている。その下に満開の桜。とてもすがすがしい気持ちだった。
天気がいいのでビールが進んでしまう。もう一本買っておけば良かったと思い、自動販売機を探して視線を彷徨わせたその時。
向こうの方のベンチに座っている、カップル。佳亮くんだ。隣は誰だろう。佳亮くんよりも小さくて髪が長くて風にさらさら流れている。
二人はお重を取り出して、そこから何かを頬張っている。お弁当? 様子からして、彼女の手作りのようだった。
仲良くお弁当を囲む二人は、桜の背景も相まって、とてもお似合いのカップルだ。佳亮くんは最初に顔を見たときに思った通り、目が大きくて印象的なかわいい子だし、彼女は佳亮くんより小さくて、きっと佳亮くんの腕にすっぽり収まる。
(………)
うわあ、なんか見ちゃいけないものを見ちゃった気分! 今度、どういう顔で佳亮くんに会えば良い!?
薫子は混乱して、取り敢えずその場から離れた。
見ちゃいけない。あれは私が知らない佳亮くんの顔。佳亮くんにだってプライベートがある。そのことを、私たち二人は共有してきたし、これからも共有し続ける。
だから、また来週、佳亮くんがご飯を作りに来てくれた時、ご飯を美味しいって食べて、お礼にコーヒーをご馳走すれば良いんだ。
薫子はそう思ってマンションに走って帰った。
桜が満開になった週末、佳亮は織畑を駅に迎えに行った。佳亮のマンションの近くに、距離は短いが桜並木が見事な河川敷があって、織畑が有名どころの桜よりそういうこじんまりとしたところのほうが良いと言ったのだ。
「織畑さん」
電車を降りてきた織畑は大きな荷物を持っている。小さな織畑の顔が隠れてしまうような大きさで、銀色のそれはクーラーボックスのようだった。
「持ちますよ」
「あ、ありがとう」
織畑の荷物を持ち、河川敷の方へ歩いていく。天気も良く、河川敷に出ると丁度いい散策コースで桜並木が続いている。二人は桜の下を歩きながらまずは花見を楽しんだ。
他にも花見を楽しんでいる人たちが居て、中にはシートを敷いて宴会をやっているグループもあった。
佳亮と織畑は桜並木の真ん中ほどにしつらえられた幾つかのベンチのうち、空いているベンチに腰掛けた。
「それでね、これ…」
ベンチに下したクーラーボックスを織畑が開ける。保冷材の入ったそこには、お重が詰め込まれていた。
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今日は佳亮の出張料理がない週末だった。薫子はコンビニでビールとおにぎりを買って、マンションに戻ろうとして、そういえば桜が満開だとニュースで言っていたなと思い出すと、マンションの近くにある河川敷に足を向けた。
コンビニで買ったビールを飲みながら河川敷の歩道を歩く。空が水彩絵の具を溶かしたような水色で、薄く雲がたなびいている。その下に満開の桜。とてもすがすがしい気持ちだった。
天気がいいのでビールが進んでしまう。もう一本買っておけば良かったと思い、自動販売機を探して視線を彷徨わせたその時。
向こうの方のベンチに座っている、カップル。佳亮くんだ。隣は誰だろう。佳亮くんよりも小さくて髪が長くて風にさらさら流れている。
二人はお重を取り出して、そこから何かを頬張っている。お弁当? 様子からして、彼女の手作りのようだった。
仲良くお弁当を囲む二人は、桜の背景も相まって、とてもお似合いのカップルだ。佳亮くんは最初に顔を見たときに思った通り、目が大きくて印象的なかわいい子だし、彼女は佳亮くんより小さくて、きっと佳亮くんの腕にすっぽり収まる。
(………)
うわあ、なんか見ちゃいけないものを見ちゃった気分! 今度、どういう顔で佳亮くんに会えば良い!?
薫子は混乱して、取り敢えずその場から離れた。
見ちゃいけない。あれは私が知らない佳亮くんの顔。佳亮くんにだってプライベートがある。そのことを、私たち二人は共有してきたし、これからも共有し続ける。
だから、また来週、佳亮くんがご飯を作りに来てくれた時、ご飯を美味しいって食べて、お礼にコーヒーをご馳走すれば良いんだ。
薫子はそう思ってマンションに走って帰った。