料理男子、恋をする

そして、改めて食事を始める。ごま油で炒めたハンバーグは風味が抜群だしごぼうのパリパリ感が良い。豆腐と肉の卵とじも、お腹を満たしてくれて、言うことなかった。

二人してあっという間にペロっと平らげ、薫子はいつも通りゲームに向き合う。佳亮は使った皿をテーブルから引き、全てを洗ってしまうと、最後に生ごみをまとめて、ごみ箱に捨てようとした。

「あれ?」

生ごみ箱に、炭になった黄色い塊が沢山。なんだろうこれは、と思っていたら、それに気づいた薫子が、急に慌てだした。

「わ、わーわー! 見ちゃ駄目! 見ないで!」

小さい部屋を佳亮のところに飛んでくる。そして、ゴミ箱の蓋を閉めた。ゴミ箱に覆いかぶさるようにして、佳亮からごみ箱を隠している。…こがねに近い茶色の髪から覗く耳先が朱(あか)い。

「か、かおるこさん……?」

ごみ箱を隠すように体全体で覆って、佳亮に背を向けている。薫子が何を思ってごみ箱を隠しているのか分からない。もう一度薫子の名を呼ぶと、ふるふると首を振った。なにか、見られたくないものがあったのだろうか? ゴミ箱に?

「どないしたはったんですか、薫子さん。ゴミが捨てられません」

佳亮が言うと、薫子が手を伸ばしてごみを受け取るという。そんなに見ちゃいけないものだったのだろうか。あの黒焦げの黄色い塊…。

薫子が佳亮から受け取ったごみを生ごみ箱に捨てると、立ち上がり、空笑いをした。

「いやあ、柄にないことをしたわ。やっぱり料理は佳亮くんに作ってもらった方が良いね!」

…ということは、さっき見た黄色い塊は薫子が作ったのだろうか? 急にまたなんで…。あ、黄色い塊は卵の塊なのか? だから冷蔵庫の卵がなくなっていたのか?
ぽかんとして薫子を見る佳亮を前に、薫子がだんだん情けない顔になっていく。眉を寄せ、顔を手で覆う。何時もの自信満々な薫子は何処にも居なかった。

「…薫子さん、どうしちゃったんですか、一体…」

壊れ物に触れるように、佳亮は薫子の肩に触れた。びくりと肩が跳ね、薫子が動揺していることが分かった。

「……女なら、やっぱり料理のひとつでも出来ないと駄目なのかな、って、ちょっと思ったのよ。でも、私には向かないわ。やっぱり佳亮くんに作ってもらう」

やっぱりもなにも、最初からそう言う約束を取り付けてきたのは薫子の方じゃないか。今更なんだっていうんだろう。

「そうですよ。そういう約束じゃないですか」

恩返しの時期は過ぎたかもしれないけれど、薫子には本当に感謝しているし、佳亮の楽しみを共有してもらえる人が居るのは嬉しいのだ。

「うん、そうだったね。これからもよろしく!」

もう先刻の薫子は何処にも居ない。何時もの明るい薫子がそこに居た。


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