料理男子、恋をする
部屋を出た佳亮に白樺が深くお辞儀をした。佳亮も会釈で返すと、白樺に微笑まれてしまった。
「薫子さまがお食事を召し上がって下ってようございました。薫子さまはお帰りになってから全くお食事を召し上がって下さらなかったのです」
「ええっ?」
初めて聞く薫子の具合の悪さに、佳亮は心配になってしまった。
「薫子さん、そんなに具合悪かったんですか…?」
佳亮の問いに、白樺も心配顔だった。
「お医者様もお呼びしたのですが、精神的なものだろうと言われまして…。ですので、私どももあれこれ手を尽くしたのですが、どうしても食べてくださらなくて…」
何か仕事でストレスでも抱えたのだろうか。
「佐々木さん、お仕事で何かあったんですか?」
社長の仕事はよくわからないけど、例えば業績不振とか、取引先が無茶を言ったとか、そういうことならわかる気がする。
「いえ、業務は順調です。なので、急に休むと言われて驚きました」
仕事は順調? だったら何がストレスだったのだろうか。
「原因はよく分かりませんが、今は食べていただけましたので、これからは良くなっていかれるかと思います。我々も全力を尽くします」
白樺の言葉に、あ、はい、としか答えられない。
佐々木と一緒に薫子の部屋を離れて階段を降り、玄関へ行く。白樺が見送ってくれた。
「次は薫子さまとご一緒にいらしてくださいませ」
深々とお辞儀をされて困ってしまう。それに薫子と一緒にとはどういう意味だろう。疑問が残ったままになったが、佐々木の車が使用人によって玄関に横付けされていて、佐々木が運転席に乗り込んだので、白樺に問い質すことは出来なかった。
車がエンジンをかけて走り出す。南向きの薫子の部屋は見えなかった……。