料理男子、恋をする
ふと自問自答すると、答えはNOと直ぐに出てくる。薫子が恋人のことを(おそらく)大事に思うように、佳亮も薫子と囲む食事の時間が大事だった。今までの恋人たちに否定され否定され続けた佳亮の料理を美味しいと言って食べてくれる薫子の存在が、なくてはならないものになっていた。

(大事やねん……。薫子さんも、ご飯の時間も……)

でも、今、それだけじゃない気持ちが胸の中に渦巻いている。

佳亮が知らない、薫子のプライベートの時間に会っているあの男の人に昏い感情を持った。そして、薫子が料理の奮闘話をした時に感じていたもやもやは、薫子をプライベートまで独り占めしたいという気持ちの表れだったのだと、はっきりわかったのだ。

一体何時から? 自分の存在を救ってくれた『恩人』に対して、なんていうことだろう。佳亮は自分の感情を恥じた。

幸か不幸か、明日は出張料理の日だった。薫子に会ったら、謝罪して、これきり会わないと約束しよう。薫子の幸せな恋路を邪魔するつもりはないし、自分の気持ちがみじめに散るのを薫子に見せるわけにはいかない。それが、『恩人』に対して、最低限の礼儀のような気がした。

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