料理男子、恋をする

約束のオムライス

翌日。佳亮は緊張して薫子の部屋を訪れた。何時ものエコバッグを持って、佳亮は玄関で薫子が出かける準備をするのを待つ。

…筈だったが、逆に薫子に部屋に上がらないかと誘われてしまった。

今日の料理は? それより前にもう会えないと告げられるのだろうか? もしそう告げられたら、素直に頷いて部屋から出ていこう。そう心の中で決めて、佳亮は靴を脱いで部屋に上がった。背水の陣とはこのことか、と頭の中でよぎった。

「あの…、なにもなしじゃ寂しいから、コーヒーでもどうかと思って」

そう言って、薫子が冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。そういえば会話が少なくなってから、食事のお礼のコーヒーも買いに行くことがなくなった。思えばあのくらいから、玄関で何か言いたそうにしていたっけ。

そう思ってコーヒーを受け取る。佳亮が座ったのを確認して薫子も正面に座った。缶コーヒーを持ち直して薫子を見と、心なしか、自分だけでなく薫子も緊張した表情だ。

受け取った缶コーヒーを開ける心の余裕もなく、手の持ったままテーブルに置いた。カン、とちょっと高い缶の音が小さな部屋に響く。

「………」

「……、………」

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