料理男子、恋をする
「…………………、………」
…………は…? なんだって…?
一瞬呆けた佳亮に、真剣な瞳をした薫子が迫ってきた。
「こんな、女の屑みたいな私だけど、好きな気持ちは、本当なの……。料理教室を逆手に取るようなことしてごめんなさい。…でも、あれがないと、佳亮くんに会えなかったから……。…でも、もう良いの。気持ちを伝えられただけで、満足だわ…。今後は…、…佳亮くんと彼女の邪魔はしない」
きっぱりとした口調で薫子が言う。
………。
……ちょっと待って。脳みその処理が追いついてない。大体、薫子は最初に思ったように美形なのだ。女ということを勘案して美人と表現しても良いけれど、要するに整った顔の人に真剣なまなざしで切々と訴えられると、それだけで脳みその処理能力がパンクする。
佳亮は状況を把握しようとしてかぶりを振った。
「待ってください、待ってください。薫子さんには恋人がいますよね? その方はどうしたんですか? それに、僕の彼女って?」
この前見た光景が脳裏をよぎる。あの時、確かに薫子は上体を屈めて運転席に顔を寄せて何か話をして、そしてドライバーとキスをしていた。あの人は恋人じゃないのか? もしかして別れたとか? それに佳亮の彼女とは、どういう意味だろう?
佳亮の言葉に、心底思い当たらないというきょとんとした顔で、薫子が、こいびと? とおうむ返しに問うた。
「そう、恋人! この前、ランボルギーニで帰ってきた薫子さんとキスをしてたでしょう!」
佳亮の言葉に、漸く合点がいったというような表情(かお)の薫子が、佳亮の疑問に答えた。