料理男子、恋をする

「わかるよ、白樺から聞いた。良い人のようだね」

「そう。とてもいいひと」

幼い頃から薫子の周りでは薫子を大瀧への人脈のつてにしようとする人が多かった。小さい頃はそれが分からずににこにこしていたが、少し大きくなれば、相手がどんな気持ちで自分に接しているかだなんて容易にわかる。利用されるだけの人生が嫌だったから花嫁修業もしなかったし、今の会社に就いてもお飾りの社長が嫌で会社の為に努力は惜しまなかった。

結果、変り者として遠巻きに視線を寄越されていたけど、それで良いと思ってた。そんな中、無償で食事を作ってくれた佳亮は今まで薫子の周りにいた人たちとは全然違っていた。そもそも、自分が何かを得ようと思ってない。そんな人は初めてだったから、びっくりして、感動した。

こういう人の傍に居たい。そう出来たら、とても幸せだろうと思ったのだ。
でも、出来なかった。一人で自立して生活している佳亮に、結局は大瀧に支えられている薫子は相応しくなかった。無言であの部屋から立ち去ることも考えたが、それではあまりにも、この初めての本気の恋が可哀想だ。迷惑と知りつつ告白するのは胸が痛むが、薫子も今の気持ちを割り切るために何らかの区切りが必要だった。

「彼を、…困らせてしまうわね…」

俯いて言う薫子に、そんなことないさ、と樹が言った。

「彼は分かってくれるよ。薫子の気持ちも、告白の理由も」

兄のやさしさに涙が滲んだ。

「そうだと、嬉しいわ…」

オムライスが作れるようになったら、佳亮に告白する。そして、この家に戻ってこよう。

薫子は、心を決めていた……。


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