料理男子、恋をする
「どうも、佐倉と言います。初めまして」
男性はリビングの入り口で佳亮たちにぺこりとお辞儀をした。応じて佳亮たちもその場で会釈する。佐倉がソファに座ると、織畑が種明かしをしてくれた。
「以前、大瀧さんに誤解させた杉山くんとのお弁当ランチ、あれ、佐倉くんのご両親とのお食事会で出すお料理を見てもらっていたのよ。その節はごめんなさいね、大瀧さん」
「あ、いいえ…」
謝罪されてしまってはそう応えるしかないだろう。織畑の話は続く。
「佐倉くんのお義母さまが兎に角お料理好きで…。流石に下手なものは出せないから、料理上手の杉山くんにご指導仰ぎました。あの後、佐倉くんのご両親とのお花見お食事会は、結局上手くいって、先週改めて佐倉くんの家にご挨拶に行ったわ」
織畑の話に心から安堵する。あの時、彼氏のご両親に食べさせなければいけないと焦っていたから、下手に褒めるのではなくて、お弁当としてどう味が出ているかを意見した。結果オーライで良かったことだ。
「良かったですね」
「おかげで印象もよく受け入れてもらえたわ。婚約したの」
そう言って、薬指の指輪を見せる。
「男の人はどうだか分からないけど、女は彼女かもって疑った相手が実のところどうなのかって、気になるもんだから、大瀧さんの誤解を徹底的に解消しておきたくて…」
私も経験あるのよ、と織畑は笑った。佐倉が織畑の言葉を継ぐ。
「今では笑い話だけどね。僕が良くランチに行く店の店員の女の子が、僕の忘れ物の鍵を渡しに追いかけて来てくれて、それがはるかの会社の近くだったから、誤解させてしまって…」
「私も不安定な時だったから、直ぐに嫉妬しちゃったのよ」
経験があるから薫子の気持ちは分かると言う。そういう配慮はありがたかった。
「薫子さん、何でも自分で決めて片付けちゃうんで、そういう機微は分からないから助かります」
佳亮が言うと織畑は、「女心は複雑よね」と薫子に笑いかけた。薫子も笑い返していた。