料理男子、恋をする


「楽しめましたか?」

帰り道に佳亮は薫子に尋ねた。急に見知らぬ人の家に招かれて緊張していたから、心配だった。

「うん、楽しめたわ。私、家を出てから会社の人としか交友がなかったから、新しい知り合いが出来て嬉しい」

「そうですか。なら良かった」

微笑み返してくれる薫子にそう言う。

「…私も何時か…、佳亮くんのご両親に、お料理振舞わなきゃいけないのかしら…」

並んで歩く道すがら、薫子がそんなことを呟くので、気にしないで、と言った。

「まだ先のことなので心配要りませんが、両親は僕のことよく分かってますし、薫子さんのこともきっと良く分かってくれます」

「そうだと良いけど…」

料理の腕は、どうしたって佳亮のほうが上だから、其処は両親を納得させるつもりだ。薫子に無理強いをするつもりもないし、薫子の為に料理を作れるなら嬉しいだけだから困ることはない。

「それより、僕のほうが問題ですよ」

「なにが?」

薫子がきょとんとして言うから、佳亮はちょっとため息が出てしまう。

「あんなお屋敷に住んではる薫子さんのご両親に、僕が受け入れてもらえるかどうかの方ですよ」

ううーん。以前話した両親の反応を思い出して、薫子が唸った。

「大問題だなあ…」

肩を落とす佳亮を薫子が励ます。

「私も両親を納得させるわ」

薫子はそう言ってくれたけど、やっぱり大きな問題だった。


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