料理男子、恋をする
*
その夜佳亮が帰った後、薫子は兄に電話していた。
「兄さん、助けて」
急な電話にも兄は出てくれた。
『どうしたんだ、薫子』
切羽詰まった薫子の声に、焦りの混じった声が返る。
「ど、どうしよう。…佳亮くんに、紅葉狩りに誘われたわ…」
兄には佳亮とお付き合いすることを伝えてある。良かったじゃないかと手放しで喜ぶ兄に、でも…、と薫子は続けた。
「私、佳亮くんとお出かけするような洋服を持ってないのよ…」
この前会った織畑は可愛いブラウスとスカートを着ていた。あの時薫子は佳亮の職場の先輩に会うということだけで緊張して、仕事着のパンツスーツでなんとか乗り切った。でも、紅葉狩りは二人っきりだ。お付き合いを始めて、ほぼ初めてのデートになる。
『なんだ、そんなことか。俺に任せておけ』
電波の向こうで兄が張り切った声を出した。兎に角、紅葉狩りまでに洋服を用意しなければ、と薫子は思った。
*
次の週末、薫子は実家に帰っていた。部屋には兄に見繕ってもらった洋服がある。どれも試着してみて、兄が良いと言った物だ。多分、間違いない…、と思う。
(それにしても、心許ないわ…)
鏡の前で試着してみてやっぱり思う。それに、自分では似合っているのかいないのか、全然分からない。ただ、何時もと違うとは思う。
(…こんなに張り切ってしまって、佳亮くんが見たらどう思うかしら…)
薫子が普段洋服に構わないことは佳亮に知れている。いっそ、何時も通りの服装の方が良いのではないか。そう思ったけど、部屋の外で待っていた兄に試着した洋服を見せると、満面の笑みで、かわいいよ、と言ってもらえたので、それで自分を納得させる。
どきどきしながら、薫子は洋服をマンションに持って帰った。ハンガーラックには掛けずに、収納棚にしまう。デートで初めて見せた方が、彼も喜ぶよ、と兄が言ってくれたからだ。
(喜んでくれるかしら…)
喜んで欲しいと思う。薫子は紅葉狩りの日を指折り数えた……。
その夜佳亮が帰った後、薫子は兄に電話していた。
「兄さん、助けて」
急な電話にも兄は出てくれた。
『どうしたんだ、薫子』
切羽詰まった薫子の声に、焦りの混じった声が返る。
「ど、どうしよう。…佳亮くんに、紅葉狩りに誘われたわ…」
兄には佳亮とお付き合いすることを伝えてある。良かったじゃないかと手放しで喜ぶ兄に、でも…、と薫子は続けた。
「私、佳亮くんとお出かけするような洋服を持ってないのよ…」
この前会った織畑は可愛いブラウスとスカートを着ていた。あの時薫子は佳亮の職場の先輩に会うということだけで緊張して、仕事着のパンツスーツでなんとか乗り切った。でも、紅葉狩りは二人っきりだ。お付き合いを始めて、ほぼ初めてのデートになる。
『なんだ、そんなことか。俺に任せておけ』
電波の向こうで兄が張り切った声を出した。兎に角、紅葉狩りまでに洋服を用意しなければ、と薫子は思った。
*
次の週末、薫子は実家に帰っていた。部屋には兄に見繕ってもらった洋服がある。どれも試着してみて、兄が良いと言った物だ。多分、間違いない…、と思う。
(それにしても、心許ないわ…)
鏡の前で試着してみてやっぱり思う。それに、自分では似合っているのかいないのか、全然分からない。ただ、何時もと違うとは思う。
(…こんなに張り切ってしまって、佳亮くんが見たらどう思うかしら…)
薫子が普段洋服に構わないことは佳亮に知れている。いっそ、何時も通りの服装の方が良いのではないか。そう思ったけど、部屋の外で待っていた兄に試着した洋服を見せると、満面の笑みで、かわいいよ、と言ってもらえたので、それで自分を納得させる。
どきどきしながら、薫子は洋服をマンションに持って帰った。ハンガーラックには掛けずに、収納棚にしまう。デートで初めて見せた方が、彼も喜ぶよ、と兄が言ってくれたからだ。
(喜んでくれるかしら…)
喜んで欲しいと思う。薫子は紅葉狩りの日を指折り数えた……。