料理男子、恋をする

薫子が隣の運転席に乗り込む。釣られて薫子の方を見て…、…とんでもないことに気付いた。

薫子のスカートの丈が、運転するには短い。ペダルに乗せた脚を動かそうとすると、膝が見えてしまうのだ。これには参った。発車しようとする薫子を取り敢えず止める。

「か…っ、薫子さんっ! 待って、待ってください!」

急に運転を遮られた薫子には、でも佳亮の動揺が伝わってない。きょとんと、なに? と尋ねらえて、佳亮は真っ赤になって何と言ったものかと思った。取り敢えず自分のカーディガンを脱いで、薫子の膝に掛ける。

「ひ、…膝が見えてしまいます…」

指摘されて薫子はその事実に気付いたようだった。言葉を無くして紅くなる。

「ご……っ、ごめんなさい……っ!」

小さな悲鳴とともに聞こえたのは、消え入りそうな謝罪だった。でも、薫子が悪いわけではない。佳亮が邪な気持ちを持ってしまったのがいけないのだ。

「い、…いえ、…薫子さんは、悪くないです…。僕こそ、…あの、…すみません……」

車内に気まずい空気が流れる。なんとか立て直さないと…、と思っていたところへ、薫子が口を開いた。

「…下手に繕うと、良いことないわね。…佳亮くん、カーディガン借りるわ」

絶対動揺してるだろうに、佳亮に気を遣って気丈に振舞う。ただただすみませんとしか言えなかった自分が情けなかった。



運転席でハンドルを握ると、薫子はスムーズに車を走らせた。こういう車は運転し辛いと聞いていたけど、難なく運転している。馴染んでいるというか、やはり自分の車なのだなあと思う。

(カッコいいよなあ、薫子さん…。女の人やったら軽とかが多い筈やのに、こんな大きな車…)

黒一色の内装も、薫子に似合っていた。佳亮だったらこうはいかない。

(俺の方が軽か…)

自分で想像しておいてなんだが、自分の脳裏に浮かぶ姿が情けなさすぎる。本当に薫子は自分の何処が良かったのだろう。

(料理だけやったらへこみそうや…)

自分の想像に二度落ち込んで、佳亮は項垂れた。ちらりと薫子が佳亮の顔色を窺ったのに気付かなかった。

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