料理男子、恋をする
「うわあ、あの娘(こ)、男の出したお弁当食べてる」
「おい、女の方がデカいぞ」
「男の方も、なよっちい顔してんね」
割と大きな声で言われた言葉に周りも薫子たちを見た。好奇の目に晒されて居心地が悪いと感じたのは、これが初めてだった。
それに、自分がどう言われようと気にしなかったが、佳亮のことを悪く言われるのは許せなかった。ひと言言おうと立ち上がりかけたところを、佳亮が手を引くことで諫めた。
「…佳亮くん……」
「気にしない方が良いです。…それに、折角綺麗に着てくれたワンピースに似合いません」
僕が童顔で頼りないのは本当ですし。
そう言って佳亮は笑った。薫子はこの時ほど胸が痛むことはなかった。
「私が料理上手で背が低かったら、佳亮くんにあんな顔させなかったのかしら…。背なんて高くても低くても同じだと思っていたし、料理なんて出来なくても買えば生きていけると思っていたけど、こんなに辛いことがあるなんて、思わなかったわ……」
そう言って涙を零す。樹は薫子に掛ける言葉がなかった。
薫子の背が高いのは薫子の端正な顔立ちを引き立てる美点だと思っていたし、料理が出来なくても家に戻れば困らない。薫子も外食などで賄っているらしいから、これは樹と同じだろう。
しかし、樹の理解の及ばない所で薫子が傷付いている事態は、何としてでも対処しなければならない。樹は眉間に皴を寄せた。