料理男子、恋をする


佳亮は自宅のキッチンで弁当箱を片付けていた。生ごみ箱に残ったおかずを捨てる。…薫子はあまり食べてくれなかった。理由はあのカップルの言葉だろう。思い返して自分が情けなくなる思いだった。

薫子は明らかに気分を害していた。それなのに自分はそれを止めるような真似をして。でも体格から見ても男は佳亮が敵う相手じゃなかったから、もし薫子に危害が及ぶようなことがあったら、佳亮は男を止められないし、薫子に怪我をさせるのも嫌だった。

中学も高校も大学も、朝と夜は弟妹の食事の世話があったから部活に入らなかった所為で筋肉は付かなかったし、仕事をしている今も勿論ジムになんて通ってないから力はない。

ちょっとは鍛えておけば良かったかなあ…。

そうため息をついても薫子を傷付けた事実は変えられない。どうやって謝ったら良いんだろう。考えた末に、佳亮はスマホを手に取った。



実家の自分の部屋でベッドに横になる。ふかふかのベッドは、しかし薫子の心を慰めてはくれなかった。

(私の所為で、佳亮くんを傷付けた…)

変えられない事実を他所に謝っても、佳亮の傷は消えないだろう。これから付き合っていく中で、同じ思いを何度もさせるかと思うと、自分が佳亮に相応しいとはとても思えなかった。

(…お別れした方が良いのかな……)

嫌な思いを重ねるより、今別れた方がまだ良さそうな気もする。どうしよう…とスマホを見つめていたら、不意にラインの着信音が鳴った。どきりとする。

(…佳亮くんかしら……)

震える指で画面を開くと、そこには織畑からのメッセージが届いていた。
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