料理男子、恋をする

―――『こんばんは。今日は紅葉狩りでしたね。どうでしたか?』

そうだ、織畑には今日の洋服について相談していたのだった。樹に買ってもらった洋服を試着して写真に収めて画像を送り、どの服が良いかとアドバイスをもらっていた。デートに行くうえでの女性としてのたしなみも聞いていた。気にしていてくれたのだ。

どうしよう…。

少し迷って、薫子はメッセージをしたためた。薫子の知り合いで、薫子たちのことを知っている人が居ない。織畑に頼るしかなかった。

―――「実は、通りすがりの人に嫌なことを言われて、佳亮くんを傷付けてしまったんです。どうしたら佳亮くんに謝れるでしょうか?」

薫子は、あのカップルに言われたことを細かく伝えた。直ぐに返事が来る。

―――『通りすがりの人の言うことなんて、気にすることないですよ。杉山くんも、きっと気にしてないと思うな。むしろ杉山くんは、大瀧さんのことを気にしてると思います』

薫子のことを…? どういうことだろう…。

―――『大瀧さんが自分の誇りと、杉山くんの名誉の為に立ち上がったのに、杉山くんは止めたんでしょう? 大瀧さんのプライドを傷付けたと思ってるんじゃないかな』

薫子の…、プライド? あの時、そんなものがあっただろうか?

―――「私は佳亮くんに似合わないんじゃないかと思うんです。背も高いし、女らしくないし、喧嘩っ早いし」

薫子の、一番の悩みも聞いてもらう。織畑は、そんなことないよ、と返してきた。

―――『そういう基準で杉山くんは見てないんじゃないかな。大瀧さんが女らしくないって気にするってことは、杉山くんが料理が得意なのを男らしくないって思うことと同じよ。カッコいい大瀧さんとかわいい杉山くん、私たちが見ても素敵なカップルだったわ。お互いに出来ない所を補い合える、理想の二人よ』

そう…、なのかな。…だと良いけど……。

―――『あとは杉山くんとちゃんと話せると良いですね。一人でしこりを抱えたままだと、杉山くんも辛いと思うわ』

佐倉と二人で歩んできた織畑が言うのなら、そうなのだろう。薫子は織畑に礼を言うと、樹の部屋の扉をノックした。
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