料理男子、恋をする

「兄さん」

「どうした、薫子」

深夜なのに、樹は起きていた。薫子は少し笑みを見せて、樹に抱き付く。

「私、明日の朝、部屋に帰るわ」

樹は薫子の頬を両手で包んで薫子の表情を見た。先刻のような寂しさを感じさせない。

「もう良いのか?」

「うん。佳亮くんと話してみる」

しっかりとした光が瞳に宿っている。可愛い妹は、何時の間にか、自分で羽ばたくことを覚えていた。

「薫子が良いと思う方法なら、俺は全力で応援する。でも、辛くなったら帰ってこい。俺は何時でも此処に居る」

樹の言葉に薫子が微笑む。

「ありがとう、兄さん」

額にキスをする。ふふ、と腕の中で薫子が微笑った。



「薫子さん、明日会ってくれるそうなので、謝ってきます」

佳亮は電話をしていた。相手は織畑だ。

『大瀧さんも杉山くんのこと気にしてたから、直ぐ解決するわよ。心配しなさんな』

全く、今回のことで織畑にはますます頭が上がらなくなってしまった。薫子の様子を聞いてくれたのは織畑なのだ。佳亮が傷付けた薫子にどうやって謝ったら許してもらえるか尋ねていた。貴方たちは似た者同士ね、と笑われた。

『お互いに「相手が、相手が」ってそればっかり。噛み合ってるうちは良いけど、すれ違ったら大変よ。気を付けなさい』

先輩のアドバイスを肝に銘じる。深夜にすみませんでしたと謝って、もう一度礼を言うと佳亮は通話を切った。


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