料理男子、恋をする
翌日。佳亮と薫子は、お互いに思っていたことと謝罪を述べ合って、円満に話は終わった。話してみれば何ということはないしこりだったけれど、一人で抱えているにはお互いにとって大きすぎた。
「佳亮くんが会ってくれるって言ってくれて、嬉しかったわ」
ほっとした表情の薫子が言う。
「僕も、昨日は絶対薫子さんが怒ってはったと思うてたから…」
お互いの、ちょっと掛け違えた釦みたいに、直してしまえば何ということないことでも、掛け違えたままでは気持ちが落ち着かないそれを解決出来て良かったと思う。
照れ交じりの笑いが部屋を包む。佳亮は気持ちを切り替えて、薫子を買い物に誘った。
「栗ご飯にしようと思うんです」
佳亮の提案に薫子が良いわね、と頷いた。今旬なので、美味しい栗が手に入る。おかずは秋刀魚が良いだろう。これも旬だ。二人は立ち上がって買い物に出かけた。
*
季節は何時の間にか移ろっていて、もう上着がないとこの時間は肌寒い。薫子は黒のコートを羽織っていた。お付き合いを始めても薫子は色気づかず、相変わらず黒一色の彼女が逆に好ましい。佳亮は薫子の横を満たされた気持ちで歩いていた。
何時もよりちょっと早い時間にスーパーに到着した。籠を持って売り場を回ると、魚屋のご主人が珍しく話し掛けてきた。
「新婚さん。今日は秋刀魚を安くしとくよ、買ってって~」
「し……」
しんこん……。
まさかそんなことを言われると思っていなかったので、思わず薫子と顔を見合わせてしまって、お互い紅くなってしまった。
「いや~、初々しい反応だねえ~。きっと秋刀魚が美味しいよ! ほら買った買った!」
「ああ、頂きます! だからそんな風に言わないでください!」
紅くなるのと秋刀魚が美味しいことには相関関係はないけど、魚屋の勢いにのせられてあまり吟味もせずに秋刀魚を籠の中に入れて、そそくさと店の前を去る。魚屋の前に残った主婦のお客さんたちがちらちら此方を見てきたのには、本当に参ってしまった。