料理男子、恋をする


「何時もより時間が早かったから、魚屋さんも余裕があったのね」

薫子の言葉に、帰り道で先刻の魚屋に掛けられた言葉を思い出す。佳亮と薫子を見て男女のカップルだと思って貰えたのは良かったけど、ちょっと話が飛躍しすぎだった。多分、薫子の言う通り、暇だったんだろう。これからは何時も通りの時間に行こう、と佳亮は思った。

網いっぱいの栗ともち米、新鮮な秋刀魚と大根を買って薫子の部屋に戻る。キッチン用品売り場で魚焼きの網も買った。薫子の部屋のガスコンロは最低限の二口コンロでグリルが付いていない。魚焼きの網が必要だったのだ。

「今日の夜とか、ちょっと部屋が魚臭くなっちゃうかもしれませんね」

煙のことを気にして佳亮が言うと、薫子はそれは良いわと笑った。

「美味しいご飯の夢が見れそうじゃない」

全く、薫子の食に対する前向きな発想には脱帽する。佳亮は薫子の隣を歩きながら笑った。

栗の皮むきは薫子には難しかったようで、ほぼ佳亮が剥いた。栗ご飯を炊飯器にセットして、お吸い物を作る。ねぎの使いかけがあったので溶き卵と大根とねぎのお吸い物にした。それから秋刀魚を焼く。コンロに掛けて火の調節をしながら秋刀魚をふっくらと焼き上げるとご飯も丁度炊けた。最後に大根おろしを作って食事の完成だ。栗ご飯にかけるごま塩は手製のものだ。買うよりストックを活用した。
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