料理男子、恋をする

小さなテーブルに栗ご飯、秋刀魚、お吸い物が二人分並ぶ。いただきますっ、と元気よく言った薫子が秋刀魚をひと口頬張ってにっこり口角を上げるのがかわいい。

「美味しいわ~、秋刀魚、美味しい! やっぱり旬のものだね」

「そうですねえ。今年は不漁らしいですけど、秋のうちに一度は食べたい味ですよねえ」

「それに栗ご飯もほっくほく! お吸い物もやさしい味だし、ほっとするわ~」

もぐもぐとほおを緩めながら食べる薫子が幸せそうで何よりだ。この時間があるから週中頑張れる。佳亮にとって最早なくてはならない時間になっていた。

「デザートも食べましょうね。モンブランタルトはなくなっちゃったんですけど」

薫子の家を訪れる前に、コンビニで薫子の好きな栗のムースを買い求めていた。本当は棚に並んでいたモンブランが欲しかったのだが、ちょうど孫の為にモンブランを買い求めに来たご老人に譲ってしまった。

その話をすると、私は良いのよ、と薫子が微笑んでくれて、こういうところも好きだと思う。有名なパティスリーじゃなくコンビニのスイーツで許してくれるところも。

「コンビニで同じ品物を同時に触ろうとしたなんて、昔だったら恋愛ドラマのエピソードですよね。顎髭豊かなおじいさんでした」

「ふふ、佳亮くんはコンビニで運命を決めるのかしら」

薫子もそう言って笑う。何の変哲もない時間だけど、確実に二人にとって必要な時間。それが共有出来ていて、嬉しかった。
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