料理男子、恋をする

十一月も後半になると木枯らしが吹いてぐっと気温が落ちてきた。通勤の時もマフラーが欠かせなくなって、暖房の入った電車に乗ると混雑にはうんざりするが、体が温まることにほっとしたりしていた。

「あ~、そろそろお鍋の時期だよね~」

十五時のコーヒー休憩の時に織畑がそんなことを言った。確かにこれだけ冷えてくるとあたたかいものが食べたくなる。佳亮は今まで一人鍋もしてきたけど、薫子と食べたら凄く楽しそうだ。

(…せやけど、薫子さんち、カセットコンロってないねんなあ…)

薫子の家の調理器具は必要最低限なので、ガスコンロで作る食事以外を作ったことが無い。これから何度薫子と使うか分からないので、買うという選択肢も考えてしまう。

(別れるつもりはないけど、薫子さんがどう思てるかは分からへんし…)

佳亮の両親の食事を振舞わなければと思っていたあたりを考えると、将来の事を考えてくれているのかなとは思っているが、まだ明確に約束したわけではないし、付き合い始めて浅いから、まだ将来を決める実感もない。

(う~ん、薫子さんだけの時に使うとは思えへんねんなあ…。でも、一緒に食べる時は活用できそうやし…。あっ、そうか、災害時も使えるやん)

もうひとつ、買おうかなあ。薫子の家に置いておく分を。

今日帰りがけにホームセンターを見に行ってみよう。そう思って、佳亮はコーヒーをひと口飲んだ。

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