料理男子、恋をする


「佳亮くん、いらっしゃ…、えっ、何その荷物?」

次の出張料理の日。段ボール箱を抱えて薫子の部屋を訪れると、薫子がその箱に驚いた。箱に描かれている絵を見て二度びっくりしている。

「えっ? …コンロ?」

「薫子さん、もうお鍋の時期やと思いませんか?」

佳亮が言うと、合点がいったというように、薫子が驚きの表情を浮かべた。

「えっ、家でお鍋が出来るの?」

その反応で、薫子が実家で鍋を食べたことが無かったことに気付いた。まあ、あんな大きなお屋敷に住んでたら、シェフは鍋なんてやらないだろうな。鍋料理の存在を知っていたという事は、会社の付き合いで知ったとかだろう。冬場は忘年会などでよく鍋のコースを使う。それが家で出来るとは、思わなかったんだろう。

「そうです。お家でお鍋、やりましょう」

「わー、是非! 楽しみだわ」

それならば話は早い。早速食材を買いにスーパーへ出向いた。

「鍋料理って会社の忘年会で食べたのが初めてだったけど、すごく体があったまったのを覚えてるわ」

薫子がうきうきした様子で売り場を見ている。

「何鍋を食べたんですか?」

「えっとね、キムチチゲ鍋? キムチが美味しかったの」

それはあたたまっただろうな。今日は何にしようか。売り場を物色していると、野菜売り場で薫子が青い実を手に取って、佳亮を呼んだ。

「佳亮くん、青いみかんよ。珍しいね」
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