料理男子、恋をする

薫子が手に持っていたのは、小ぶりのすだちだった。確かに見た目がみかんと似ている。

「薫子さん、それはすだちです。すだち、食べたことないですか?」

「これすだちだったの! すだちは家で肉料理に載ってきたりしたわね。そういえば、あの時もみかんだと思ってて、平田に『すだちですよ』って後で教えてもらったんだったわ」

成程、ステーキか。確かにそう言う使い方もある。

「鍋にも使いますよ。今日、使いましょうか」

佳亮の提案に、薫子は良いわね! と笑みを浮かべた。

「じゃあ、肉っ気も欲しいですから、すだち鶏団子にしましょうか。すだちで香りを出して、鶏団子とあとは白菜とか春菊とかキノコ類で繊維質を取りましょう」

そう決めて籠に材料を入れていく。すだち、鶏ひき肉、ネギ、白菜、春菊、マイタケ、シメジ、エノキ、豆腐、昆布。

「お鍋だったら日本酒かしら」

薫子の部屋にはビールしかない。佳亮は飲まないから、薫子が消費するなら買って行っても良い。

「……ひとりだけ楽しんじゃってもいい…?」

「是非是非!」

売り場を探して小さめの日本酒を買った。ふふふ、と口許が緩む薫子を見ていると、飲めるって良いなあ、なんて思えてくるから不思議だ。今までの人生で、どれだけお酒を楽しんでいる人と食事をしても飲みたいなんて思わなかったのに。
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