料理男子、恋をする

お味はいかが?(1)




翌日。自分の住むマンションの道路を隔てた向かいのマンションの八階にある薫子の部屋を訪ねた。よくよく考えてみたらまだ会って二回目の(そのうち一回は目を合わせただけだ)女性の家を訪ねるなんて非常識だったが、玄関を開けた薫子が頓着しない笑顔で出迎えたので、佳亮は少しほっとした。

「まあ、入って、入って。なにも出せないけど」

「あ、いえ、お構いなく…」

そう言ったけど、本当に、ペットボトルのお茶一つ出てこない。佳亮がじっとしていると、薫子は冷蔵庫の前でこう言った。

「まあ、私の部屋の冷蔵庫なんてこんな感じなので、材料何を買ってきても入るわよ。何を買う?」

そう言って薫子が手招きをするので、失礼かと思いつつも冷蔵庫を見せてもらう。するとそこには、数本のコーラとビール、そしてエナジードリンクとボトルガムが入っているだけだった。…これは酷い。

「大瀧さん、ご飯は毎日どうしてるんですか?」

佳亮の問いに薫子はあっけらかんと応えた。

「朝はエナジードリンクを飲んでいくわね、仕事だから。で、昼は社食か外食。夜はコンビニで買うわ」

貴方と初めて会った時もそうだったじゃない。そう言って薫子は偉そうに腰に手を当てた。

それ、威張って良いことかな。女の人だったら、そういうの隠しそうなもんだけど。

佳亮の考えに被せるように薫子が言う。

「だから、何を作ってくれても良いし、どんな料理でも楽しみよ」

あっけらかんと薫子が笑って言うので、佳亮は脱力した。


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