料理男子、恋をする
「ただの家庭料理ですけどね」
佳亮がそう言うと、薫子は意外と真面目な顔をして、謙遜しちゃ駄目、と言った。
「私は母親の作った料理を食べたことがないから、家庭料理っていうものに憧れがあったのよ。お弁当もそう。何時も平田が作ってくれてたけど、学校の友達はみんなお母さまが手作りされてて、羨ましかったわ。勿論平田の料理が好きじゃないわけじゃないけど、平田は大瀧に雇われてるから私に食事を作ってくれるだけだし、やっぱり『この人の為』っていう感情は違うでしょう?」
以前屋敷を訪れた時の白樺の様子からは、薫子を家族同様に思っているような気がしたが、薫子がそう感じるのなら、それは仕方ないことなんだろう。傅(かしず)かれて生活するというのも、大変なんだなと思った。
「僕のご飯で良ければ、いくらでも食べてください」
「そうね。でもたまにはこうやって外で食べるのも悪くないわ。いつも佳亮くんに作らせてばかりだから」
そうだな。前は約束で作っていたが、今は違う。二人の時間の過ごし方も変わって行っても良いだろう。そう思っていたところへ、賑やかな二人組がグラスをもってやって来た。