料理男子、恋をする
「薫子さん!」
佳亮は店の外に薫子を見つけて驚いた。背の高い薫子より更に頭一つ分背の高い男に薫子が絡まれている。咄嗟に駆けだした佳亮の前で、薫子は景品の箱をアスファルトに落とすと、握られていた手首を反対の手で掴んで身体を反転させ、柔道の大外刈りの要領で大きな男をアスファルトに倒していた。男は上手く受け身を取っていたが、男女の喧嘩を見つめていた周囲の人たちはぽかんとその様子を見つめ、アスファルトに倒された男は顔を立ち上がるともう一度薫子に手を伸ばした。
「け、喧嘩は止めてください! 薫子さん、大丈夫ですか!?」
二度目は佳亮が間に合った。しかし男とは体格差がありすぎて、喧嘩の仲裁としては役に立たなさそうだ。それでも、男と薫子の間に立ち塞がると、男は佳亮の胸倉をぐっと掴んだ。シャツが引っ張られて首が苦しい。
「なんだ、お前は」
横柄に言う男に威圧感を感じ、どう説明しようかと思った。言葉に詰まった佳亮を引っ張る手首を薫子がやはり捩じって引きはがすと、佳亮を引き戻して庇い、男に凛とこう言った。
「私の大切な人です。乱暴にしないで」
薫子の言葉に男が目を見開いて驚愕した。
「正気ですか!? 薫子さん! どこの会社の男ですか!」
「会社は関係ありません。私個人の、大切な人です」
佳亮は薫子に庇われて、男と薫子のやり取りを聞いていた。
男は薫子と知り合いで、多分薫子の恋人か何かだ。そこへ佳亮がのうのうと現れて、男が激高している。しかし、喧嘩の原因かもしれない自分が言うのもおかしいが、こんなところで諍いごとをするべきではない。
「薫子さん、そして貴方も。こんなところで喧嘩は駄目です。話し合いで……」
仲裁しようとした時、店から出てきた面々が佳亮の方へ寄って来た。