料理男子、恋をする
「杉山、どうしたんだ」
「やけにギャラリーが多いぞ。なにしたんだ」
中田原と長谷川が駆けつけてくれる。織畑と佐倉も駆け寄ってくれた。
「何が起こったんだい、杉山くん」
「大瀧さん、大丈夫?」
人数的に不利だと感じたのか、男は佳亮たちの前で押し黙り、次に口を開いたのは薫子に向けてだった。
「薫子さん。今日は諦めますが、婚約の件、僕は諦めませんからね。会長とお父さまにもお話しておきます」
怒りの籠った声で薫子にぶつけるように言うと、男は路肩に止まっていた車に乗り込んだ。直ぐに車は発車して、テールランプは街の明かりの中に消えた。佳亮は薫子に向かって放たれた言葉に驚いていた。
(……婚約……)
あんなお屋敷に住んでいるお嬢さまなんだから、婚約者くらい決められていてもおかしくない。そういえば二人の間でお互いの家族のことを話したことはなかった。
今まで知らなかった薫子の家族とその周りに広がる人間関係。薫子の隣を歩いていくのなら、見ない振りをするわけにはいかないと思った……。