最後の悪夢
わざわざ女将さんが、裏の部屋に行って薬箱を持ってきてくれた。私は感謝の意を述べて部屋に戻ることに。
せっかくなので途中、旅館を出てすぐのところにあった自販機まで、飲み物を買いに行った。貴重品は大体は持ち歩くようにしているため、財布を持ってきていたのだ。凛上の好みが分からないからなんとなくで選んだのだけれど。
部屋に戻ってすぐ、凛上の姿がないことに気づく。
靴はあるのだが、リビングにはいない。......? 一体どこへ。
と、和室―リビング―に通じる扉の前で止まっていたら、突然左側のドアが開いて。驚いてフローリングの床を滑り、リビングの畳に足を踏み入れれば。
部屋にもともと置いてあった浴衣を着て、髪からぽたぽたとなにかを垂らしながら、ドアから出て来た男性。艶のある黒髪から滴り落ちる雫。柔らかそうな薄桃色の唇。墨を落としたみたいな真っ黒の、色っぽい瞳。と、目が合って私は数秒思考が停止する。
お風呂に入ったんだとは分かったが......しれっと入ったんだな、この人は。