赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
また腕を引っ張られたかと思えば、自動販売機の陰に隠れるように引き寄せられた。
「じゅ、潤く……」
「シッ。さっき先輩の声が聞こえたから。声潜めて」
「っ、わかった……」
耳元で囁かれ、体がビクッと揺れる。
今どうなっているのかというと、背中には壁、目の前には潤くんが壁に肘をつけていて、完全に肘ドン状態。
しかも両肘を深く曲げていて、もはや肘ドンというより挟まれている感じ。
「今通り過ぎたみたい。あと少しだけ我慢して」
「うん……」
顔の隣に頭があるから目は合ってないんだけど、全身が密着してるから変に緊張する。
さすが吸血鬼、耳がいいなぁ。私も五感が鋭くなりたい。そしたら潤くんと釣り合うのに。
あれこれ考えて緊張から意識を逸らす。
「……もう大丈夫。いきなりごめんね」
「ううん……ありがとう」
彼女の気配が遠のいたようで、ゆっくりと体が離れた。
ドキドキしすぎたからか、気づいたら溜まっていたはずの涙がすっかり乾いていた。