赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―


また腕を引っ張られたかと思えば、自動販売機の陰に隠れるように引き寄せられた。



「じゅ、潤く……」

「シッ。さっき先輩の声が聞こえたから。声潜めて」


「っ、わかった……」



耳元で囁かれ、体がビクッと揺れる。


今どうなっているのかというと、背中には壁、目の前には潤くんが壁に肘をつけていて、完全に肘ドン状態。

しかも両肘を深く曲げていて、もはや肘ドンというより挟まれている感じ。



「今通り過ぎたみたい。あと少しだけ我慢して」

「うん……」



顔の隣に頭があるから目は合ってないんだけど、全身が密着してるから変に緊張する。


さすが吸血鬼、耳がいいなぁ。私も五感が鋭くなりたい。そしたら潤くんと釣り合うのに。

あれこれ考えて緊張から意識を逸らす。



「……もう大丈夫。いきなりごめんね」

「ううん……ありがとう」



彼女の気配が遠のいたようで、ゆっくりと体が離れた。

ドキドキしすぎたからか、気づいたら溜まっていたはずの涙がすっかり乾いていた。
< 143 / 316 >

この作品をシェア

pagetop