赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―


「……さっき言われたこと、気にしなくていいから」



頭上から優しい声が聞こえて、心臓がドキンと音を立てる。



「でも、本当のことだし……あれが普通の反応なんだよ」



飲める血が限られているとはいえ、潤くんの場合は味覚が麻痺している。

食生活を変えたことで、大好物だった食べ物が美味しく感じなくなったり、欲さなくなったりするように、味覚が戻れば舌に合わなくなる可能性も充分ある。


好みだって言ってくれたけど、潤くんは優しいから、本当は心のどこかで無理してるんじゃないのかなって。

だから……。



「……潤くん、前に言ってくれたよね。悩み事とか困ったことがあったらすぐ言ってって。だから教えて? 私の血、どんな味がする……?」



漆黒の瞳を真っ直ぐ見つめ、意を決して尋ねた。

すると、伏し目がちになった彼が、そっと私の左手をすくい──。




「……風花の血は、ほんのり甘い味がするよ」


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