赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―


首周りが緩んで露わになった鎖骨。

その下に、うっすら傷痕のようなものが見えた。

服をずらしてみると、数本の線が斜めに入っている。


引っ掻き傷……?

薄さからするとだいぶ年月が経っているように見えるけど……普通に生活してたら、こんなところに傷なんてつかないよな? 掻きむしった痕とかか?



「潤、くん……?」



甘い声で名前を呼ばれて視線を上げると、先ほどまで閉じられていた目がいつの間にかまん丸に開いていた。



「ごめん……! お風呂、上がったから……入っていいよ」

「……うん。わかった」



フリーズしている彼女にぎこちなく伝えて、逃げるように部屋を出て和室に駆け込んだ。


……やってしまった。


あれだけ何度も抑えると言い聞かせたのに、俺は何をやってるんだ。

冷静に考えたら、勝手に服の中を覗くなんて完全にアウトだぞ。しかも寝ている時に。

恐怖症を治していこうと言い出した自分が怖がらせてどうするんだ。
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