赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―

横を向いて目を瞑ると、耳元で低い声が聞こえて。

額に感じた柔らかさと生温かさが、じんわりと頬に広がった。


これは治療。キスじゃない。


千冬だって指の切り傷を治してもらったんだ。

傷の場所が変わっただけであって、深い意味なんてない。潤くんは優しさで治してくれているだけ。

なのに……心臓が全然落ち着いてくれない。



「ん、もう大丈夫」

「ありがとう……」



唇が離れ、顔を合わせる。


……やっぱり全然変わってない。

さっきの意地悪な顔とは違った、穏やかで余裕のある顔。

本当、ズルいなぁ……。なんて思っていたら。



「……ごめん、調子に乗りすぎた」

「いや、私こそ! 酷いこと言ってごめんね。その……全然嫌じゃなかったから」



突然の謝罪に、こちらも謝罪で返した。

指から吸血してきたの、そこまで気にしてないよ。

そういう意味を込めて口にしたのに。



「勘弁してくれよ……」



なぜか彼は頬を赤く染めて、気まずそうにそっぽを向いた。
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