赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
危ない危ない。スープを噴き出すところだった。
もう、柚季ちゃんったら。不意打ちで潤くんの名前を出さないでよ。
「未だに、優しい優しいキッスを思い出しちゃう?」
「その言い方やめてよ! ただの治療だって言ってるじゃん!」
あぁ、また柚季ちゃんの妄想が始まった。
3週間前──顔の傷を治してもらってから、潤くんとの間にややぎこちない空気が流れている。
あの後途中まで一緒に帰ったんだけど、会話をすることもなく別れちゃったんだよね。
からかいすぎて反省してたのか、潤くんは私の顔を見ようともせず。
『じゃあまたね』って言うまで、ずっとだんまりだったの。
しかもその翌日……。
『おはよう風花……って、どうしたその顔。寝不足?』
『うん……なかなか寝つけなくて』
『遅くまで勉強してたの?』
『勉強はしたけど、11時にはベッドに入ったんだよ。でも、なんかザワザワして落ち着かなかったの』
『ザワザワ? 何か悩み事でもあるの?』
『いや、悩み事ってほどでは……』