赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
迫りくる顔にギュッと目を瞑った、その直後。
「──何してるんですか?」
聞き慣れた低い声が耳に届き、一瞬にして安心感に包まれた。
「あら、随分早かったですね。てっきり女の子達に捕まってると思ってました」
「はははっ、冗談がきついですよ」
先輩から守るように間に割り込んできた潤くん。
声のトーンだけでわかる。これはかなりお怒りの様子……。ナンパされた時とは比べ物にならないくらいだ。
きっと想像できないほどの怖い顔をしているのだろう。
「それより、風花に何してたんですか?」
「あぁ、彼女の口元に塩がついてたので取ろうとしてただけですよ」
頼もしい背中越しに弓なりになった目と視線がぶつかり、急いで口元に手を当てる。
塩⁉ なんで⁉
あっ、さっき塩パン食べたからか……。
「それならわざわざ近づかなくても良かったのでは?」
「とても小さかったので、見間違いするといけないと思ったんですよ。僕らはあなた達とは性質が違いますからね」