赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
肩に顔が近づいてきて、ビクッと体を揺らす。
首周りに髪の毛が当たって、ちょっぴりくすぐったい。
正面からだとけっこう近距離だな。
体感的に、肘ドンされた時と同じくらいかも。
「……なんかいい匂いする」
「ちょっ、嗅がないでよ!」
犬のようにクンクンする柚季ちゃんを再び叩いた。
もう、まったく、油断も隙もないんだからっ。
「ごめんごめん。ってかさ、これ後ろから飲ませたほうが良くない? ずらしたら胸元の傷見えちゃうし」
「あっ……そうだね」
ハッと気づいて、方向転換。
普段と体勢が違うから若干飲みにくいかもしれないけど、顔を合わせない分、気まずさはなさそうだ。
「前から気になってたんだけど、これどうしたの? 猫か犬にでも引っ掻かれた?」
「あー……まぁ、そんなとこ」
「そう……とりあえず、正面からだと確実にツッコまれそうだから、後ろからのほうがいいね」
「うん。そうする」
一瞬ドキッとしたが、声色で察したのか、それ以上言及はされず。
気遣いに助けられ、服を整えてパーカーに袖を通した。