赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―


聞きたいことが山程あるけれど、今はそんな余裕どころか、質問できるような状態じゃない。


化粧品の匂いに酔ったと早口で嘘を吐き、頭を下げて方向転換。小走りで出入口へ。


助けて。助けて潤くん。



何度も心の中で助けを求めながら、手汗で湿った手でバッグを握りしめて、お客さん達の間をすり抜ける。

ようやく外に出られたと胸を撫で下ろした、その直後。



「雨村さん! 大丈夫ですか⁉」



追ってきた彼に背後から腕を掴まれた。



「ごめんなさい、僕がここを指定したばかりに……。場所、移動しましょうか」



心臓がドクンドクンと嫌な音を立てる。


なぜなら、彼の瞳に光がなかったから。

それに加え、逃がすまいと言わんばかりに腕を強く握りしめていて……。



「っ……あぁ……」



光を灯していない黒い眼差し、丁寧な口調とは裏腹な強い腕力。

得体のしれない恐怖に震えが止まらず、口も体も思うように動いてくれない。
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