赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―
危険だ。今すぐ逃げろ。
全身の細胞がそう叫んで、潤くんに電話しようとバッグに手を伸ばす。
しかし──。
「逃がしませんよ」
阻止するかのように腕を引っ張られて、そのまま後ろから抱きしめられた。
「やっ、は、なして……っ」
「前に言いましたよね。親友と仲違いしたことがあるって。僕……ずっとその子のことが好きだったんです」
もがく私の耳元で沢村先輩が語り始めた。
その人は、新淵さんとも同級生だった、ケンカ別れしてしまった女の子で。
別れた今も、ずっと彼女のことを想うほど大切に想っていたと、相談会の後に教えてくれた話だった。
「医者の息子だった僕は、周りから浮いた存在で、ずっと独りぼっちでした。けれど、その子は唯一、僕のことを避けずに分け隔てなく接してくれたんです」
将来は親の病院を継ぐと決められていた沢村先輩は、幼い頃から厳しい教育を受けていた。
そのため、周りの子達と壁を感じて、なかなか仲良くなれず。
そんな孤独の日々を過ごしていたある日、彼女と出会ったのだそう。