赤い瞳に今日も溺れる―飢えた漆黒の吸血鬼―

突然怒鳴られて肩がビクッと揺れた。

今まで聞いたことがない声色に、心臓がバクンバクンと音を立て始める。



『先に帰ってろ』

『っ、でも……』

『いいから帰ってろ‼』



乱暴に言い放つと、俯いたままおもむろに立ち上がり、フラフラした足取りで窓際に移動した。

これだけ拒否しているんだから、帰ったほうがいいのかもしれない。


でも……。



『バカ! こんなに苦しそうなのに、放っておけるわけないでしょ⁉』



今朝から顔色が悪かった上に、少し息苦しそうにしていて。

しまいには熱でもあるのかと疑うくらいふらついていた。


もしこのまま1人にして、行き倒れてしまったら。

警備員の人が来るまで誰にも見つからなかったら。

おじさんとおばさんに、千冬に、潤くんにも合わせる顔がない。



『とりあえず出よう? まだ近くに先生いると思うし。家に電話してもらって迎えに……』



優しく諭しながらもう1度彼に触れた。

次の瞬間。




『さっきからピーピーうるせぇんだよ‼』
< 281 / 316 >

この作品をシェア

pagetop